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ひまわりリアルタイムWeb「伝育」計画

伝育事例

情報通信研究機構
村田 健史
名古屋市科学館
主任学芸員 毛利 勝廣
公益社団法人全国学校図書館協議会
事務局長(常務理事) 設楽 敬一
香川県土庄町立土庄小学校(小豆島)
教諭 岡 亨

小学5年生の理科の授業(天気)

情報通信研究機構
村田 健史

東京学芸大学デジ読評価プロジェクトからの電話が鳴ったのは、10月13日の火曜日でした。「今週の金曜日に、小平第一小学校でひまわりリアルタイムWebを使った授業をしてみませんか」とのこと。小学校5年生の2つのクラスに、それぞれ1時限の授業をする提案でした。急なことで準備をする時間もないため返事を逡巡したのですが、同小学校ではちょうど天気の単元が終わったばかりで、あるクラスの生徒から「ぜひ、今の地球を見てみたい」というリクエストがあったとのこと。思い切って引き受けさせていただくことにしました。

私がまず、準備したのは、同学校で使っている5年生の理科の教科書の該当単元にしっかり目を通すことでした。そこで分かったことは、教科書が伝えたいことは「天気はおおむね西から変わる」「台風は例外」「夏に積乱雲が発生すると夕立が降りやすい」など、我々の日常生活では常識である天気の基本的な理解ということでした。私が予想していたよりも平易な内容で、気象・天気が苦手な私でも難しいものではなかったのです。

一方で、どんな授業をしたらよいか考えるため、小学校5年生の気持ちになってみました。突然、会ったこともない先生が来て1時間だけ授業をするのです。多くのことを伝えることは難しいと思いました。そこで、内容を上の3つの点に絞って、ひまわり8号リアルタイムWebを使ってそれを体験する・実感することを目標とすることにしました。

ひまわりリアルタイムWebでは、ViewURLという形(URL)で特定の現象を登録しておくことができます。私は、次の3種類(4つ)のViewURLをあらかじめ登録しました。そして、授業では、生徒たちにこの3つの画像を見せながら、話を進めたのです。

また、最後の積乱雲の成長については、その日(2015年7月20日)のアメダスのデータを見せて、積乱雲の成長とともに日照量は減り、気温は下がり、そして雨(夕立)が突然降りだすことをグラフで見せたのです。

おおむね授業は順調に終わり、私の眼には生徒たちの多くは納得したように見えました。理解ではなく納得です。理解というのは個人によって差があると思いますので、生徒たちの理解を私は確認することはできません。ただ、理科の授業で大切なことは「教科書に書いてあることが正しいと納得できること」ではないかと思っています。たとえば、「天気は西から変わる」というのは教科書が一方的に伝えていることです。それを「納得する」ためには、実際に(極端に言うと任意の日を選んだ場合でも)天気が西から変わることを目で見て確かめることです。逆に、それを確かめることができた時、その事実は生徒たちの中に定着し、そこで初めて「理解ができた」と言えるのではないかと思います。

後日、同小学校の理科の担任である本永先生から面白い話を聞きました。この授業の直後に天気の単元の小テストをしたところ、普段は30点とか40点とかの生徒の多くが100点を取ったというのです。納得するということが理解するということに結び付いたのではないかと、私は想像しています。

今回の授業で、私自身も、多くのことを学びました。一つは、今回の1つ目の授業ではパソコン演習室のWindowsパソコンでひまわりリアルタイムWebが正常に動作しなかったことです。これは、おそらく、ブラウザがIE10(Internet Explorer 10)であったことが理由であると思います。ひまわりリアルタイムWebはIE非対応だったのです。いろいろな学校(小、中、高校)の先生にお伺いすると、学校のPCのWebブラウザはIEであることが多いのとのこと。ひまわりリアルタイムWebもすぐにIE対応にしました。しかし、1つ目の授業ではうまく地球の絵が表示されずに、生徒さんには迷惑をかけてしまいました。

二つ目は、部屋を暗くする効果です。授業では結局、主に私のノートPCの画面(モバイルルータでインターネット接続)を黒板に並んだスクリーンに投影したのですが、部屋の電気を暗くしないと迫力が伝わらない(暗くすると非常にインパクトがある)のです。一方で、教科書で何かを確認する(たとえば積乱雲の写真を見る)場合には部屋を明るくせねばなりません。今回の授業では、先生についていただいたので部屋の電気をつけたり消したりできましたが、一人で授業をする際にはこれがなかなか厄介だと思いました。

三つめは、やはり、生徒が自宅でもこのWebを見るかどうかです。例えば、授業中に「(7月と10月の台風の進路はわかったけれど)8月や9月はどうなの?」という声が上がりました。私は「それは、ぜひ、自宅や図書館のパソコンで見てみてください」と答えました。こうやって、時間中にはすべてを説明できなくても、生徒が自主的に自分で調べてみることはとても大切です。そのためには、図書館にパソコンがあり、司書の先生と一緒にこのWebを見ることができるのも、有効な手法ではないかと考えます。(つまり、司書の先生にもWebアプリの操作を覚えていただくということです。)

今回、大変良い機会をいただいた東京学芸大学デジ読評価プロジェクトの皆様、小平第一小学校の皆様(生徒さんも)、ありがとうございました。


名古屋市科学館でのひまわりリアルタイムWeb活用

名古屋市科学館
主任学芸員 毛利勝廣

名古屋市科学館は名古屋市の中心街にある総合科学館です。世界最大のプラネタリウムと理工、天文、生命科学などのさまざまな分野の展示による科学教育を行っており、国立科学博物館に次ぐ年間140万人ほどの入館者を迎えています。

理工館6Fの最先端科学のコーナーには、サテライトステーションという展示物を設置し、国際宇宙ステーションのような低軌道衛星、各種地球観測衛星の極軌道衛星、そしてひまわり8号に代表される静止軌道衛星と地球との位置関係を示す大きな模型を主に、関連する衛星の情報を提供しています。

このたび、このひまわりリアルタイムwebにかかわらせていただき、常設展示型のインターフェースによるひまわり8号のリアルタイム画像を公開しています。このインターフェースにおいては、常設展示に必要なノウハウを提供させていただきました。その基本は開館前のシステム起動時の表示設定をしておけば、あとは手をかけずに最良の状態を見学者に提供できるという考え方です。実際には地球全図や日本列島の画面上での位置やカバーエリア、地図メッシュの有無などを立ち上げ時に、その日毎の最良の位置に調整します。するとをその設定が記憶され、その上で一定間隔で自動で表示切り替えが行われます。また、見学者が自分の端末でもひまわりリアルタイムwebを体験できるようにQRコードの表示機能を加えました。さらにQRコードは表示モニター自体の大きさや、設置場所の高低で、見学者の端末カメラからの見かけの大きさが変わります。そこで、簡便に任意の大きさ、位置に置くことができるようにし、さまざまな展示環境下で容易に認識できるようにしました。

こういった科学館でのノウハウを持ち込んだ基本インターフェースを開発し、その成果を全国の科学館、プラネタリウム、公開天文台などでの活用につなげ、より多くの人々に、このすばらしいひまわり8号の画像をご覧いただけるようしていきたいと思います。


大人の都合でデータを加工していないひまわりリアルタイムWebの魅力

公益社団法人全国学校図書館協議会
事務局長(常務理事) 設楽 敬一

ひまわりリアルタイムWebを拝見させていただきました。開発コンセプトに「使い方の説明なしで使える」があるとお伺いして、感激いたしました。

私は以前、中学校で理科を担当していました。理科室には、実験器具、ビデオ、PCなどを常備しており、子どもたちは導入で本時のねらいを聞いてから必要な器具、機器や情報を集めて観察実験をする授業を実践していました。授業前には、基礎的な部分についたて指導しますが、子どもたちは器具、機器に触れたり使い方を互いに教え合ったりしながら道具として使いこなしていました。自分たちに必要な道具であることが分かれば、いたずらなどしませんでした。

ひまわりリアルタイムWebにも、同じように子どもに訴える『力』があると感じました。触っているうちに様々な発見があり、発達段階に応じて発見に深みが増すと思います。ひまわり8号リアルタイムWebの最大の特長は、大人の都合で見せたい部分だけを加工して提示してない所です。子どもたちにとって、本物のデータをほぼリアルタイムで見ることにこそ、大きな意味があると思います。一方で教員は、本物のデータを教材化することの楽しさや、理科にとらわれない他の教科での授業で多様な切り口が考えられます。

今後も求める情報にたどり着くための手立ての多様性や情報を比較する観点など具体的な実践例を積み重ねることで、ひまわりリアルタイムWebの有用性や思いもよらない使い方などが発見できると思います。


いくつもの瞳が島からみつめる地球

香川県土庄町立土庄小学校(小豆島)
教諭 岡 亨

先日、学校の作品展(夏休みの児童の作品を展示)がありました。よい機会でしたので、子ども達にひまわりリアルタイムWebを見せました。みんなそろって、「おお~」と驚いていました。実はあまり反応を期待していなかったので、逆に私の方も驚きました。

もちろん全員が興味を示すわけではありません。クラスの雰囲気や学年や個人によっては違いますが、テレビに映して全員が見る機会を提供したことで、このような成果はあったと思っております。

ちなみに今日は、iPadでアップルテレビを使ってひまわりリアルタイムWebの画像やほかのコンテンツを映してみました。その後ちょっと教室を離れていると、画面がひまわりリアルタイムWebの画面に戻っていました。やはりパソコンで見せるのがよいと、つくづく感じました。

子どもたちの反応は『日本列島』の方が今一つだったのですが、『世界全図』の動画をみせたところ…。素晴らしい反応でした。子ども達が一番驚いていたのは、台風の画像でした。また、桜島の噴火にもかなり関心をもったようです。予想以上によい手応えでしたので、来週からは図書室の27インチタッチディスプレーで展示します。子ども達の反応が楽しみです。

あわせて、県立図書館から気象や宇宙に関する本を借りてきました。本を机の上に置くと、子ども達はさっそく興味を示しました。中学年の課題図書でも「ぼくはうちゅうじん」という本があって、その本の読書感想文を書いている児童もおり、そんなのを絡めて子ども達に紹介していきたいと思っております。

とはいえ、子ども達の反応は、気まぐれです。やってみないとわからないところがあります。もしかしたらがっかりされるかもしれませんが、できる範囲で今後も様々な実践をさせていただきます。